ターボポンプインデューサージオメトリの感度アプローチ

ターボポンプは、液体燃料を用いた宇宙空間への打ち上げロケット設計における重要なコンポーネントです。燃焼室圧力が高く維持されている中、大きな推進力を得るために必要な燃料流量を供給するためにのコンポーネントであり、ロケットエンジン供給システムで使用されます。

ロケットエンジン総重量削減、ターボポンプの回転速度が非常に大きいこと、液体燃料貯蔵タンク内減圧度合いに対するポンプ仕様の結果として、打ち上げロケット向けのターボポンプの高精度な性能予測、及び予測値を用いた設計が必要であるため、運用ライフサイクルにおけるトータルの信頼性最大化を目的としています。また、評価には液体燃料のキャビテーション発生の予測を含めることも不可欠です。理由として運用条件においてキャビテーションが発生する条件で頻繁に動作するため、その結果生じる性能低下を評価することが必要なためです。

ターボポンプのインデューサーはポンプインペラにて過大なキャビテーション発生を防ぐために十分な量だけインペラ入口ヘッドを上げる機能を持っています。ベーン数が少ない軸方向インペラ形状であり、遠心ポンプインペラのすぐ上流に配置され、同じ回転速度で回転します


image.png


ターボポンプのインデューサー性能に最も影響を与える幾何学的設計変数を調査し、製造コストと評価時間の投資を最小限に抑える設計変数のパラメトリック化システムを構築する必要があります。CAESES®を使用し、GeoPI (Geometric Parametrization of Inducer, インデューサのパラメトリック形状)を構築しました。作成には完全に自動化されたワークフローを用い、CFD解析に必要な流体領域の生成を含むターボポンプの初期設計形状を忠実に構築することができます。この形状にはターボポンプのインデューサなどの形状構築に対する文献ガイドラインに従って定義された形状特徴が含まれています

 

GeoPI:ターボポンプインデューサのパラメトリック形状

image.png GeoPIは、インデューサ設計に特化したモデルです。ターボポンプの初期設計は過大なキャビテーション発生状態でも動作できるような特性を有しており、ターボポンプのインペラがキャビテーションがない状態で運用できるようにします。インデューサ設計は、従来のインペラ設計とは異なり、鋭い前縁形状と、作動流体の逆流を防ぐため傾斜ブレードを備えています。

 このモデルではまず子午面上でハブとシュラウドの等高線をそれぞれ4つまたは5つの制御点を持つBスプラインカーブで定義します。子午面上で、子午線全長の%表記される前縁と後縁も含まれ、特に前縁角度は、ハブとシュラウドで定義されたそれぞれの角度値の線形補間値として定義されます。最後にブレードチップクリアランスを一定または非一定の関数で定義します。

左図のように、インデューサは、インペラとは異なる特徴的な形状をしています。実作業ではCAESES®のスクリプト環境を介して様々な機能特徴使用します。例えば、シュラウド位置でのブレード角度(β)分布、前縁でのラップ角度(θ)値、およびブレードの傾き分布、キャンバー曲線を定義します。スパン方向に線形補間されたΔθの値をハブ方向分布として得ることが出来ます。ユーザーはシュラウド位置での流れ角分布、ハブ位置でのブレード前縁から後縁までのラップ角分布を子午面座標に対して3つまたは4つの制御点を持つBスプラインカーブとして得ることが出来ます。最後にスパン方向に指定したn個のキャンバーカーブの補間からロフトサーフェスを用い、キャンバーサーフェスが生成されます。


image.png

image.png


 次のステップは、ブレード厚さを定義します。ブレードの負圧側と正圧側の厚さ分布は、完全に独立した関数で定義できます。ハブ側とチップ側の位置にて異なる分布を設定することも可能です。また前縁、後縁位置における角度値はそれぞれの前縁、後縁形状に対した角度値であり、前縁ではクラシックなくさび形または円の形となるよう線形または二次関数のいずれかを選択することができます。最終的に指定した厚さ分布は前ステップで定義したキャンバーサーフェスに対し、垂直に適用され、最終的なジオメトリを構築します。


image.png

image.png


 ブレードを構築し、CFD解析のための流体領域を作成します。単一ブレードを含む流体領域を取得するため、周期面に相当するサーフェスを作成するためのカスタマイズされた機能を実装しています。この機能により、上述した各キャンバーカーブに対して、それぞれの入口面と出口面に合うように周期面に相当するサーフェスを作成します。その他、上流側は入口方向に延長、下流側は下流方向に延長し、より安定した解析解を得るように修正します。流体解析領域は様々なサーフェスの集合体(BRep)で作成され、完全に閉じた空間を作成しています。

定義した設計変数を変更することで、様々な形状特徴のブレード形状を得ることができます。子午面上の曲線、流れ角度分布、ラップ角度分布、およびハブからシュラウドセクションまでの前縁形状変化等を考慮した形状となります。


turbopump inducer meridional contour variation

  

           子午線輪郭の変化                                 シュラウドでのβ分布


                       Δθ分布

      

  ハブからシュラウドまで異なる前縁角度                最先端の形状バリエーション


ANSYS-CFXを使用したワークフロー

CFDワークフローでは様々なANSYSソフトウェアツールと組み合わせたフローとしています。

CAESES®でインデューサジオメトリを作成した後、流体解析領域がTETIN形式でエクスポートされ、サーフェスには異なる色が関連付けられています。エクスポートされたTETINファイルはICEM CFDにてメッシュ作成に用いられ、CAESES®で設定されたジオメトリに対し、境界条件位置やセルサイズなどの設定を実施します。これらの作業は全て一連の作業スクリプトを用い、設計変数が変更された形状に対して、自動でメッシュ生成まで実施します。キャビテーションが発生した場合でも計算モデルの変更は必要なく、この自動化されたプロセスによって評価されます。CFD計算では倍精度、乱流モデルはSSTk-ωモデル、キャビテーションモデルはレイリープレセットモデルを使用します。プロセスの最後ではFortranで記述された内製サブルーチンを組み込み後処理します。このサブルーチンではさまざまな目的関数が、対象のインデューサ内で発生するキャビテーション領域の大きさと位置に従い評価され、最後に設計案に対する総合的な評価のため定義したペナルティ関数値が取得されます。


image.png


ターボポンプのインデューサージオメトリ評価結果

作成したパラメトリックモデルに対し、まず実験計画法の一つ、Sobolアルゴリズムを使用して初期応答を確認しました。実行したケースは150ケースとなります。


image.png

 子午面上の曲線、ブレードラップ角度分布は変更せず、シュラウド位置でのフロー角度分布定義に3つの設計変数を用いました。前縁位置での角度約1度の変動と、Bスプライン曲線の中央制御点の[0:1]範囲での応答を確認しました。β分布の中央制御点のx、y座標の変化による形状変化はキャビテーション結果に大きな応答を与える結果を得ています

 





後処理結果により、初期設計に対し、結果が良好なケースを抽出しました。設計変数の変動により、キャビテーション発生と目的関数であるペナルティ関数値の約36%の改善が得られました。更なる作業は、ブレードのラップ角度分布と前縁形状に関する更なる最適探索、および厚さ分布を用いた最適探索となります。

image.png