ジオメトリモーフィング手法はCAESESで常に利用可能であり、主に船舶・海事業界で使用されていますが、ユーザーの大多数はフルパラメトリックモデリングに重点を置いています。もちろん、これらのアプローチにはそれぞれ長所と短所がありますが、CAESES 5 ではモーフィング手法をより広い業界・製品に活用するために、モーフィング機能のアップデートに多大なリソースを投入しました。これにより、モーフィングを使用することによる、より大きな利益を引き出すことができるようになりました。
フルパラメトリックモデリングは、ジオメトリすべて、または少なくとも対象コンポーネントのパラメトリックモデルをスクラッチから作成することです。パラメータが最終的なジオメトリのすべての特徴を定義するため、ここではまずフルパラメトリックモデリングについて説明します。定義されたパラメータは、オブジェクトの長さ、幅、高さなどのハイレベルなものから、他パラメータの値によって決定される、特定位置の接線角度や曲率などが存在します。パラメトリックモデルは、パラメータを入力として受け取り、形状(バリアント)を出力として生成するシステムとみなすことができます。
フルパラメトリックモデリングは、設計の初期段階での大きな変更と、後の微調整時の小さな調整の両方を可能にするため、非常に強力なアプローチです。形状プロパティを非常に詳細かつ正確に制御できる上に、制約条件(例:パッケージング要件や製造要件)の統合が容易であるため、特定の必要な特性を自動的に保存しながら形状変化することができます。ただし、フルパラメトリックモデルのセットアップには時間がかかるため、モデリング技術や製品、挙動についての詳細な知識が必要になる場合があります。
モーフィング(部分パラメトリックモデリング)では、インポートされた既存ジオメトリの変形を行います。したがって、既存形状に対する変更部分のみがパラメータによって定義され、さまざまな形状を作成できます。
部分パラメトリックモデルは通常、迅速かつ非常に簡単で、直感的なセットアップが可能です。フルパラメトリックモデルと比較すると、製品に関するインテリジェンスは少ないですが、大規模な変形を行うことは難しくなります。ジオメトリへの変形をパラメータ化すると、形状プロパティに対する間接的な制御しか提供されない可能性があるため、制約条件を組み込むことが困難な場合があります。
CAESESはこれまでに以下のようなジオメトリモーフィング機能を提供してきました。
・Shift transformationsは、ポイントの初期位置に対して特定の変位を追加することにより、ジオメトリの任意のポイントを変形します。変位は、1D(curve)または2D(surface)関数として指定できます。Shift transformationsは、連結、直接合計や乗算により、複雑な変形を行うことができます。この機能の主な欠点は、変位が固定方向、具体的にはCAESESの1つの主軸方向に限定されるため、軸方向にあったジオメトリに対してのみ効果があることです。
・Lackenby shiftは、海事業界に特化した特殊なシフト変換であり、長手方向の変位関数が自動的に決定されます。この目的は、船体の排水量と分布を変更することです。参考文献(LACKENBY, H (1950)、On the Systematic Geometrical Variation of Ship Forms, Trans. INA、Vol. 92, pp. 289-315)に記載されている古典的なLackenby shiftと比較して、CAESESで実装された機能はより柔軟で効果的な制御を提供します。
・ボックス変形としても知られるFree-Foam deformation(FFD)では、変形対象のジオメトリは、規則的な頂点を持つグリッド(つまり、行列とB-spline volumeで定義するレイヤー)で構成されたボックスに囲まれます。ボックス内に位置する初期形状のすべての部分について、ローカル座標が決定できます。頂点のいずれか、または複数の頂点を移動すると、ボックスの形状が変化し、それに伴って初期形状も変形します。FFDは、実現できる変形という点では非常に柔軟ですが、ボックスの頂点の変位が実際のジオメトリに与える影響を事前に正確に予測することは基本的に不可能であるため、間接的な制御の最も重要な例です。さらに、初期形状によっては、適切なボックスの生成に無視できない労力が必要になる場合があります。
・最後に、cartesian shiftsとspot transformationsが利用可能です。これらは基本的にポイントソースで構成され、変位が主軸または任意の方向に適用されます。この変位は、ポイントソースを中心とする影響領域の境界に向かって減衰します。このふたつについては、実験的な実装でもあり、実際の最適化問題に適用するのは煩雑で非現実的であると考えられます。
図1 Delta Shift
図2 Surface Delta Shift
図3 Lackenby Shift
図4 Free Form Deformation
図5 Cartesian Shift
CAESES 5 でジオメトリモーフィング機能を再考する動機は、モーフィングの変換・変形による最終的なジオメトリの精度に対する既存の欠点と、既存のモーフィング機能がすべてのアプリケーションに適さない要因である固有の制限を削除することです。さらに、モーフィングは、パラメトリックモデリング技術にまだ慣れておらず、既存のジオメトリを迅速に最適化したいユーザーにとって非常に便利なツールです。そのため、この機能は、簡単かつ直感的に適用できる必要があります。
指針となるビジョンは、(a)インポートされたジオメトリの選択領域に、ユーザーがフルパラメトリックモデルと同様の完全パラメトリック制御を適用できる、一種の「オンデマンドパラメータ化」を実現することと、(b)形状を素早く変形できる、使いやすい対話型ツール、のふたつです。
新しいモーフィングツールセットは、放射基底関数(RBF)に基づいています。RBF変形技術は、空間変形を抽象的な補間問題として扱うことを特徴としており、対応する一連の位置に対する一連の変位が与えられた場合、目標は空間全体の変位を滑らかに補間することになります。このアプローチでは、空間変形関数は一連の中心に配置され、適切に重み付けされた放射対称カーネルの線形結合として構築されます。RBF変形の2番目に重要な側面は、カーネルの配置です。すべてのハンドルと固定頂点にカーネルを直接配置することで、ユーザーが指定したすべての制約を満たすハンドルベースの直接操作インターフェースを簡単かつ正確に実装できます。
CAESESは、変形のオブジェクトとして離散ジオメトリ(STLなど)とNURBSジオメトリの両方をサポートします。それぞれのジオメトリのセットアップは詳細が異なりますが、基本的な原理は同じで、使用方法も非常に似ています。
ジオメトリには複数の変換を定義することができ、CAESESでは、そのような変換の1つを「RBF-region」と呼びます。まず、ユーザーはアルゴリズムによって自由に変形できるジオメトリの領域を定義する必要があります。離散ジオメトリの場合、これはジオメトリ上に領域をペイントできる、インタラクティブペイントツールを使用して領域を定義できます。一方、NURBSジオメトリの場合、変形の対象となる境界表現からサーフェスを選択します。以下では、この方法でマークされた領域を「deformation area」と呼びますが、ジオメトリの残りの部分は変形しないため、「fixed area」と呼ばれます。
deformation areaをマークしたら、その領域内のフィーチャを選択し、そのフィーチャをどのように変換するかを指定する必要があります。これらの「source(ソース)」フィーチャと「target(ターゲット)」フィーチャはユーザーが指定する必要がありますが、ターゲットフィーチャとfixed areaの間で接線が連続的に遷移するようにアルゴリズムによって変形領域が変形されます。ソースジオメトリとターゲットジオメトリの間の補間や外挿も可能です。
ソースおよびターゲットジオメトリとして選択できるフィーチャは次のとおりです。
・ターゲット位置に変換されるdeformation areにある点
・新しい位置に移動、回転、拡大縮小できる三角形群(離散ジオメトリのみ)
・空間内のターゲットカーブにマッピングされるジオメトリのカーブ
・空間内のターゲットサーフェスにマッピングされるジオメトリのサブサーフェス(NURBSジオメトリのみ)
ターゲットジオメトリは正確に一致するため、1つ以上のカーブをソースジオメトリおよびターゲットジオメトリとして使用した場合は、パラメトリックな方法で形状を正確に制御することが簡単になります。一方、専用のハンドルツールを使用して点と三角形のセットを移動すると、ジオメトリを直観的かつ迅速かつ対話的に変更することができます。
図6 インペラブレード
図7 船体(バルバスボウ)
図8 車体
図9 インテークポート
図10 プロペラ
図11 カタラマン