ピストンボウルの形状最適化

はじめに


ディーゼルエンジンは、高い性能基準を維持しながら、燃料消費量の削減に焦点を当てる必要があります。この観点から、直噴ターボディーゼルエンジンは魅力的なソリューションのひとつであり、これらのエンジンを開発する際、燃料消費量の削減と高い性能基準に加えて、排気ガスの削減が重要な課題となります。燃料消費量と排出ガス、両方の問題については、エンジン内の仕組みによって対処することが可能です。エンジン燃焼プロセスの開発において、3DのCFD解析は重要なツールであり、これによって筒内の流れ、内部混合気体の形成および燃焼、ならびに排出物の形成を調査することができます。


ディーゼルピストンボウル内の燃焼

図1:ディーゼルピストンボウル内の燃焼


ディーゼルエンジンの燃焼プロセスは、吸気ポートによって引き起こされる流れに加えて、燃料噴射とピストンボウルの形状によって決定されます。そのため、ボウルの形状に細かな変更を加えると、混合物の形成が大幅に改善され、排出物が減少します。本事例では、ピストンボウル形状を最適化するために、外部のCFD解析ソフトウェア(CONVERGE CFD)と接続し、パラメトリックモデルをCFDソフトウェアと共有しながら、様々な形状を目的関数に基づき評価します。ここで、最適化実行時の設計変数による圧縮体積は一定に保つよう構成されます。


CAESESが最適化探索した結果として出力する形状は、燃料消費量の改善と排出ガスの減少が期待される革新的なピストンボウル形状となります。


ピストン

図2:CAESESで作成したパラメトリックモデルによる形状バリエーション


今回のケースではCAESESとCONVERGE CFDの連携を行い、ピストンボウルが排出する窒素酸化物(NOx)と煤(すす)を削減することができる形状を探索します。CONVERGE CFDでは以下のパラメータを設定した解析を実行します。


・噴射タイミング:パイロット噴射時間、噴射開始、終了のタイミング

・噴射モデルとノズル方向:噴射角度、円錐角度

・燃焼モデル:燃焼遅延時間、EGR量(排出ガス再循環量)


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図3:CFD解析


形状変化の設定


ピストンボウルの形状変化の設定をするにあたり、ピストンボウルの断面形状をベースに進めていきます。本事例で使用するモデルは、様々な座標方向による半径,スプライン制御,スケーリング制御を設定し、形状変更を可能にしています。


この最適化探索についてはピストンボウル形状に対する4つの形状パラメータを設計変数としており、各パラメータはピストンボウルの形状特徴を制御します。下記にあるアニメーションでは個々の設計変数を変更した際のモデルの変化度合の影響を示しています。


また、形状変化における圧縮率は、規定された値を固定したたまま最適化探索を実施することができます。自動最適化ループを行う際には、設計変数を変更するときに圧縮率を都度調整して計算を行います。このような設定はさまざまな2次元形状パラメータを調整する場合に使用することができ、各値における優先順位を定義することも可能です。


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図4:リップサイズとボウル内側直径(左)、ボウル底半径(右)


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図5:ボウル直径(左)、燃焼スプレー方向(右)


形状データの出力


CAESESで作成したパラメトリックモデルはIGES、STEP、STLなど様々なフォーマットで出力することが可能です。ここでは、作成したモデルの各境界面を識別するための個々のIDを含む、CONVERGE CFDを対象とした形式で形状を出力しています。


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図6:識別用IDが含まれたモデル


CFD解析ツールとの連携


CAESESで作成したモデルとCONVERGE CFDとの連携設定を行い最適化実行に進みます。上記の通り、出力した形状はCONVERGE CFDを対象としたフォーマットとなっているため、モデルデータに定義されている各境界面による設定の関連付けが可能となり、簡単な計算フロー構築が実現します。解析ツールで一度実行した設定ファイル群をCAESESに受け渡すことで、最適化探索が実行されます。


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図7:CAESESでのソフトウェア連携接続画面


入力した設定ファイル内のパラメーターを最適化探索に使用する設計変数に置き換えることで、CAESESが与える値をCONVERGE CFDが読み込んで、各探索ケースにおける解析を実行することができます。


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図8:CFD解析設定ファイルの編集


最適化プロセスと結果


最適化計算は、設計変数4つに対して目的関数2つの多目的最適化となります。各設計変数に割り振られた値を用いてCFD解析を実行し、目的関数であるピストンボウルが排出する窒素酸化物(NOx)と煤(すす)の排出量を計算します。CAESESでは、各設計変数に対する目的関数の関係性をグラフ化した感度分析機能があり、最適形状の位置づけと最適化計算ケースの感度を確認することができます。


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図9:感度分析


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図10:パレートフロンティア


最適化探索の結果となる、窒素酸化物の煤の排出量が最小となる各形状と、両方の値がより低くなる形状のコンター図が下記になります。結果としては、ベースとなる形状の排出量に対して、CAESESが導いた最適化形状は、窒素酸化物の排出量が約6%減少、煤の排出量が約8%減少し、大きな性能向上を確認することができました。このように、CAESESとCFD解析ツールの連携による自動最適化を活用することで、筒内の流れや内部混合気体の形成および燃焼、排出物の形成の調査に貢献することが可能となります。


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図11:3パターンの最適候補形状による窒素酸化物の分布図


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図12:3パターンの最適候補形状による煤の分布図


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図13:ベース形状と各最適候補形状の排出量比較


本事例は、CAESES®開発元のFRIENDSHIP SYSTEMSからの提供事例を日本語翻訳したものとなります。