TCFD®を用いたアーメドボディのベンチマークシミュレーション

今回は外部空気力学のベンチマークケースであるアーメドボディのCFDシミュレーションをTCFD®を用いて検証しました。以下ではシミュレーション内容と結果について紹介します。アーメドボディは一般的な自動車を簡略したシミュレーションモデルです。つまり、アーメドボディの周りの空気の流れは、自動車の周りの本質的な流れの特徴を捉えているということになります。このベンチマーク検証の目的は、TCFD®の解析結果を実際の風洞試験の測定データと比較し、TCFD®の有用性について調査をすることです。表価内容は抗力係数、流速、および時間平均における後流側の流れとします。

 

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ベンチマークパラメータ

・流速:40[m/s]

・レイノルズ数:4.29M

・圧縮性

・メッシュ:20M[cell]

・作動流体:空気

・後流側傾斜角:25[°]

・基準密度:1.2[kg/m3]

・動粘度:1.8×10-5[Pa・s]

・CPU時間:700[core.hours]

乱流モデル:k-omegaSST

シミュレーションタイプ:Virtual tunnel

乱流強度:1%

 

前処理

今回使用したアーメドボディの元のCADモデルはSTEPファイル形式であるため、包括的なCFDシミュレーションにとっては複雑なデータになります。一般的に特定の前処理作業が必要になります。 STEPファイル形式のデータは、オープンソースソフトウェアSalomeを使用して簡略化およびクリーンアップしましたが、他のCADソフトウェアの場合と同様に境界面(表面モデル)を作成する必要があります。このようなデータを修正する前処理は、シミュレーションの結果に大きく影響を与え、適切な評価を行う上で非常に重要となります。

 

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図1:アーメドボディモデル

 

メッシュ

解析モデルのメッシュは、TCFD®に標準搭載されたsnappyHexMeshを使用して自動作成しました。アーメドボディのモデル寸法は、長さ1044[mm]、高さ338[mm]、幅389[mm]で、流体が流れる解析領域の寸法は、長さは11[m]、高さ5[m]、幅は6[m]です。 基本的なメッシュセルサイズは、1辺10mmの立方体です。また、アーメドボディのモデル位置に細分化領域(細分化レベル5)を定義しており、基本セルサイズに対してメッシュが細かくなるような設定をしています。形状の境界部分には5層の境界層メッシュを作成しており、セル間の膨張率は1.25です。snappyHexMeshはメッシュの細分化レベルを変更するだけで、部分的に粗いメッシュや細かいメッシュを定義し、より適切なメッシュ作成が可能となっています。またTCFD®では他ソフトウェアからの外部メッシュMSH、CGNS、またはOpenFOAM形式を直接読み込むことができます。

 

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図2,3:解析モデルの概要

 

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図4:メッシュモデル

 

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表1:メッシュの詳細

 

TCFD®のセットアップ

シミュレーションタイプ:Virtual tunnel

定常計算

・非圧縮性

・解析領域:1

メッシュ:20M[cell]

入口境界条件:流速40[m/s]

・出口境界条件:静圧

・乱流:RANS

・乱流モデル:k-ωSST

・壁条件:Wall functions

・作動流体:空気

・基準圧力:1[atm]

・参照密度:1.2 [kg/m3]

・動粘度:1.8e-5[Pa.s]

 

後処理

TCFD®には、効率、力、力係数、流量などの必要な評価値を自動的に計算する後処理モジュールが含まれています。これらの値はすべてシミュレーションの実行中に計算されており、重要なデータはHTMLレポートに要約されます。解析後の視覚的評価についてはParaViewで行います。

 

結果1-抗力係数

抗力係数は非常に重要な無次元量であり、空気の流れに対するオブジェクトの抵抗の尺度になります。 アーメドボディに抗力が発生する主な要因は、モデル後流側での流れの分離により圧力抵抗が生じるからです。結果としては風洞での抗力係数の実測は0.2850であり、TCFD®で計算された抗力係数は0.2848となりました。 解析結果は実測値と非常に近い値となっており、モデル後方の流れを適切に捉えることができていると考えられます。

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図5:傾斜角に応じた抗力係数の実測グラフ

 

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表2:実測とTCFD®の結果比較

 

結果2-速度プロファイル

アーメドボディの後流側から特定の距離(x)にある中心線上の速度プロファイルの結果を実測と比較しました。評価位置はx=23、103、183、および243[mm]の4か所になります。結果比較グラフによると、シミュエーションが実測データに非常に近い結果となっていることが分かります。全ケースにおいて傾向が近いことからも、TCFD®は後流側流れを再現することができていると考えられます。

 

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図6:速度プロファイル評価位置

 

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7:x=23、103、183および243[mm]での結果比較

 

結果3-速度分布

次に後流側の下流部分、アーメドボディのモデルを通り過ぎた流れを可視化し、実際の試験結果と比較します。今回使用しているモデルを考案したS.R.Ahmedの論文では、図8のような位置(a),(b)、および(c)の3つの下流位置による速度分布を調べることを提案しています。論文内に示されているのは、xA(x軸方向の距離)/l(モデル長さ)=-0.077、-0.19および-0.479の位置における対称横断面の速度分布を半分にしたものです。結果比較については、論文内に記載された流れのベクトル表示とシミュレーション結果のベクトル表示を比較しました。論文画像の逆流領域はクロスハッチングで表しています。結果画像を比較してみると、シミュレーション結果でもモデル側面側の渦形成がはっきりと確認されており、渦形成が付近の流れにより発生していることが分かります。クロスハッチング領域の速度ベクトルは、逆流の上部領域と下部領域で流れ方向が分かれており、上部領域の軸は、側面側の渦中心の方向に向かて、上向きに湾曲しています。

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図8:速度分布の評価位置

 

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図9:xA/l=-0.077

 

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図10:xA/l=-0.19

 

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図11:xA/l=-0.479

 

結果4-後流側の流れ

最後の評価内容は解析モデルの後流側流れ領域を調査することです。S.R.Ahmedは自身の論文で、モデルを通過した後流が馬蹄形渦の三層構造を発生させており、このような渦の強さや発生位置、および渦の結合は、モデル後流側の傾斜角に依存するということを記載しています。そのアーメドボディにおいて重要な流れ領域である後流側のモデル構造は、モデルが受ける抗力を決定しており、その流れの構造は少し複雑になっています。後流側の端面を過ぎた流体は、低アスペクト比の翼端付近で観察できる流れと同じように縦方向の渦に巻き上げられて、図12のように上下に配置された2つの再循環流領域AとBになります。また傾斜面上の流れは、渦Cの影響を受けるため、渦Aの強度は渦Cの強度に依存します。このような流れは、TCFD®のシミュレーションで明確に確認することができ、後流側の流れを的確に解析することが可能となります。

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図12:モデル後流側の渦形成

 

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図13: TCFD®のシミュレーション結果

 

結論

TCFD®を使用した、アーメドボディを用いた複雑なCFD解析を適切に解析することが可能であると確認することが出来ました。シミュレーションでは、抗力係数、速度プロファイル(1次元)、速度分布(2次元)、および後流側の構造(3次元)に関して、測定データと非常によく一致することが確認できました。実測データとTCFD®解析結果を比較すると、抗力係数の数値差は0.1%未満であり、全体として解析された速度プロファイルは、実測データとほとんど一致しています。解析結果の可視化により確認した流れは、実測とTCFD®シミュレーションの間で非常に良好な一致を示しています。これらの結果より、TCFD®は流体の流れを適切に解析し、ユーザにとって有意義となる情報を提供することが可能です。