吸気ポートの設計最適化

はじめに


吸気ポートは、エンジンの空気導入システムの最終部分であり、吸気マニホールドと燃焼室を接続して、吸気バルブによって開閉されます。


吸気ポートはあらゆる種類のエンジンに存在しますが、ガソリン(SI) エンジンでは特に空気/燃料混合気体の形成に顕著な影響を与えます。ディーゼルエンジンでは、ピストンボウルもその役割を果たします。


さらに、ポートの形状はチャージ運動に影響を及ぼし、好ましい形状の渦はエネルギーの消散を減らし、燃焼室に入る空気の量に影響を与え、空気の量が増加するとエンジン性能が向上することに繋がります。


本事例では、CAESESを活用した吸気ポートの設計と、CFD解析ツールと連携した自動最適化について紹介します。


■使用ソフトウェア:CAESES、CFD解析ツール


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図1:CAESESで作成した吸気ポートモデル



CAESESの吸気ポート設計能力


CAESESは、吸気ポートの設計に効果的に活用されており、このアプリケーションのための重要な機能を備えています。吸気ポートの重要パーツであるダクトは、MetaSurfaceという技術を使ってモデリングされます。この技術では、パラメトリックな断面形状を作成し、ダクトのパス(中心線)に沿うようにスウィープされ、関数曲線がスウィープ中に各断面パラメータがどのように変化するかを制御します。(形状変化については、後述のセクションをご確認ください。)


このアプローチは、設計変数の数を可能な限り少なく抑えながら、高い柔軟性をもたらし、より高速な最適化を実現します。


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図2:最適化計算後の各デザインの比較


CAESESで吸気ポートを設計する際に重要となる機能の概要は下記となります。


・バルブガイドやステムによる閉塞を考慮した上で、流入経路に沿った断面積の分布や流量に関連するパラメータを直接制御できるよう設定が可能です。

・読み込んだ既存形状を変形させるために、モーフィング機能を使用して形状変形することも可能です。この手法は、設定から変形までは高速ですが、変形の柔軟性が低いため、直接的に制御できる範囲も狭くなります。モーフィングは、NURBSサーフェスジオメトリに適用してIGES/STEPの形式として出力することや、離散化されたジオメトリ(STL)に出力することもできます。

・ロバストな設計デザインを生成することができ、失敗することなく様々なモデルを生み出すことが可能です。スマートなパラメータ化と依存関係ベースのモデルによって得られる100%ロバストなジオメトリ変化が、CAESESの最も重要な目標の1つです。

・任意の制約条件をモデルに組み込んだり、モニタリングすることが可能です。製造上の制約や、隣接パーツとの接触を考慮することが可能です。

・ジオメトリは、CFD/メッシングツールに適したフォーマットで出力することが可能です。多くのフォーマットは、各サーフェスにつけたパッチ名に対応しており、CAESESの後工程ツールでメッシュ設定や境界条件の割り当てが正しく識別できる仕様とになっています。


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図3:吸気ポートのCFD解析結果例


CFD解析ツールとの連携による吸気ポートの最適化


CAESESと商用CFD解析ツールを用いた吸気ポートの最適化ワークフローを検証するために行われたプロジェクトについて紹介します。対象となったポートは、ペントルーフ型燃焼室の4バルブエンジンに使用されているものになります。


ジオメトリセットアップ


最適化の最初のステップとして、CAESESでパラメトリックな吸気ポートモデルを作成し、7個の形状パラメータを構築しました。


楕円係数

流れ方向の2つの位置における楕円係数です。断面形状が円形か楕円形かを制御します。


楕円係数による断面形状の変化

図4:楕円形数による断面形状の変化


偏心

流れ方向の2つの位置における偏心を表します。断面形状が円形/楕円形からD字型に変形します。


偏心パラメータによる断面形状の変化

図5:偏心による断面形状の変化


入口角度

吸気角度、つまりポートの経路と水平面との間の角度です。


吸気ポート入口角度の変更

図6:入口角度による形状変化


入口高さ

入口高さは、吸気ポートの一般的な標準寸法です。


吸気ポート入口高さの変更

図7:入口高さによる形状変化


直線長さ

入口での直線長さです。これは水平面に投影されたときの経路の形状、特に入口からの直線の長さを制御します。これは隔壁の長さに大きな影響を与えます。


吸気ポートストレート長の変更

図8:直線長さによる形状変化

 

シミュレーションの自動化


CAESESのソフトウェアコネクタを使用して、CFD解析ツールとの連携を設定します。解析モデルの形状には、入口流れの条件を設定するための半球状のプレナムを追加し、パッチを識別するためのIDを含む色付けを行ったCAESESモデルを、Step形式で出力し、解析に組み込むこととなります。シミュレーションは、実際のエアフローベンチと同等の定常的なコールドフロー解析が実施されました。


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図9:解析に使用する吸気ポートモデル


最適化プロセスと結果


吸気ポートの最適化は3つのステップで実行します。まず、Sobolアルゴリズムを用いたDoEを実行し、設計変数の影響や相関関係を調査します。次に、代理モデルと多目的遺伝的アルゴリズムによる予備的な最適化を行い、パレートフロンティアを特定します。これらのアプローチは、CAESESに統合されています。


最後に、2つ目と同様の手法を用いて最適化を実行し、パレートフロンティアをさらに追加して改良しました。排出係数もしくはポート透過性、およびタンブル比という2つの目的関数を考慮します。さらに、スパークプラグ領域の乱流運動エネルギーと渦運動(またはオメガタンブル)がモニタリングされます。最適化プロセス全体では、約150の設計とシミュレーションを実施しました。


CFD flow velocity results for different designs

図10:各設計と対応する流線ベクトル結果


当然ながら、2つの目的関数は反相関の関係であり、設計変数が目的関数に与える影響は非常に多様な結果となりました。例えば、ポートの上流側の断面偏心はほとんど影響を及ぼしませんでしたが、下流側の断面偏心は、2つの目的関数に対して顕著であるものの、反対の影響を及ぼしました。その他の設計変数は、1つの目的関数と相関をしていました。例えば、入口角度はタンブル比と正の相関があり、下流側の楕円係数は排出係数と負の相関がありました。


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図11:パレートフロンティア


最終的なパレートフロンティアからは、さまざまな考慮事項に応じて、複数の吸気ポート設計を選択することができます。その中で、最適設計は、かなり高い入口角度と、吸気口でのかなり短い直線長さが特徴であることが判明しました。最終的に選ばれた最適候補解は、ベースラインからタンブル比がわずかに低いだけで、排出係数が大幅に改善されました。


本事例は、CAESES®開発元のFRIENDSHIP SYSTEMSからの提供事例を日本語翻訳したものとなります。