【DTEmpower】燃料電池熱管理の高速評価

はじめに


汎用データ分析・データモデリングソフトウェアDTEmpowerを用いた、燃料電池熱管理の高速評価を実施します。燃料電池は、燃料の化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換する裝置であり、水力・火力・原子力に次ぐ第4世代の発電技術として期待されています。この電気化学エネルギーは、外部負荷に必要な直流電力を供給することができ、燃料電池は窒素酸化物および硫黄酸化物を排出しません。発電効率が高い、燃料範囲が広い、環境汚染が小さい、信頼性が高いという特徴があります。


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図1:燃料電池の概略図


燃料電池は電解質の種類によりアルカリ燃料電池、リン燃料電池、固体高分子電解質燃料電池、固体酸化物燃料電池、メタン固体酸化物燃料電池、リン酸固体酸化物燃料電池の6種類に分類されます。中でも固体酸化物燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:SOFC)の動作温度は600℃~1000℃と比較的高く、SOFCの効率的な熱管理は電池の電力密度を高め、システムの安全安定な稼働を維持するために非常に重要です。


問題点


①SOFCは動作温度の要件が厳しく、スタック温度が低すぎるとセルの出力密度が小さく発電効率が低くなります。一方、スタック温度が高いと温度差が大きすぎるため、温度分布が不均一になり、シール材の急速劣化に伴うバッテリ損傷やシート・コネクタの変形破損に繋がるため、パフォーマンスが急低下する。


②複雑な熱伝達プロセス、エネルギー保存則などの法則に依存しているため、温度場の形成や勾配分布などの機械的特性を正確に予測ができますが、モデルの解法には長い時間がかかるため時間的制約を満たすことができない。


③モデルベースの温度制御システムは、高精度の温度分布モデルに依存する必要がある。


ソリューション:DTEmpowerによる燃料電池温度分布モデリング


上記の問題点を解決するため、DTEmpowerにを使用して、さまざまな動作条件下でのSOFCの温度分布データモデルをデータ駆動による作成し、SOFCの信頼性を迅速に評価するシステムを構築します。



燃料電池の温度分布主要パラメータのデータモデリング


1.データセット紹介:

SOFCのシングルセルシミュレーションデータセットで、6つの入力変数(電池電圧、空気と燃料の入口温度、燃料質量フローなど)と、温度に関連する4つの出力変数(平均電流密度、空気圧降、最高温度位置など)が含まれています。目標は、入力変数と出力変数の間のマッピング関係を構築し、異なる作業条件下での燃料電池の温度分布を迅速に評価することです。


2.モデリング手法と結果:

下記に示すモデリング方法では、DTEmpowerに搭載されたAIAgentなどのさまざまなトレーニングアルゴリズムを使用して、温度分布モデリングの探索とトレーニングを行います。そして、異なるモデルのテストエラーやR2などの評価指標を比較します。


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図2:データモデリングプロセス


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図3:データモデルの評価


DTEmpowerを活用することで、平均電流密度、燃料圧力勾配、最高温度位置などの高精度回帰モデルを確立することができ、燃料電池の温度分布モデリングを簡単に行うことができます。


位置ベースの温度分布フィッティング


1.データセット概要:

SOFCの長さは100[mm]、一定の動作条件(合計128)の下で、対応する位置の温度が0.1[mm] 間隔で記録され、温度分布を生成します。5つのサンプリングポイントに基づく曲線は、場所ごとに異なる動作条件下での燃料電池の温度分布を迅速に評価するために使用されます。


2.モデリング方法と結果:

下記に示すモデリング方法では、AIAgentトレーニングアルゴリズムを使用し、トレーニング用として5つのサンプルを選択、残りの995個のサンプルを比較して、128の動作条件下で位置と温度分布をフィッティングします。


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図4:データモデリングの結果


まとめ


・温度分布の統計パラメータおよび重要な関連パラメータに対して、データ駆動型手法を使用してトレーニングおよびテストを行い、ほとんどの目標変数について、AIAgentアルゴリズムに基づくモデルのR2指標(1に近いほどモデルの精度が高い)が0.97以上であることを確認しました。

・位置ベースの温度分布をトレーニングおよび予測するために、AIAgentトレーニングアルゴリズムを使用し、モデルのR2指標が0.99以上であることを確認しました。これにより、燃料電池の信頼性の迅速な評価に対して、データモデルによるサポートが提供可能であると考えることができます。


DTEmpowerは、SOFCの温度分布モデリングおよび分析において、包括的なデータモデリングソリューションを提供します。データマイニング、特徴エンジニアリング、モデルの自動学習などのテクニカルサポートにより、ユーザーは高精度なデータモデルを迅速かつ効率的に構築することが可能です。


また、構築したデータモデルを活用することで、以下の効果を得ることができます。


燃料電池の温度分布モデリングの時間短縮:SOFCのキーパラメータと温度分布の高精度代理モデルにより、入力データを与えるだけでミリ秒単位で出力データを取得することができます。これは、有限要素解析に基づく温度分布のモデリングにかかる時間と比較しても大きなメリットとなります。


②強力な温度分布データモデルのサポート:試験で取得する位置に基づく温度分布モデルのR2指標が0.99以上であり、これはモデルベースの温度制御と燃料電池の迅速な評価のための強力なデータモデルとなります。