エンジンブロックの固有値解析

はじめに


エンジンブロックの固有値特性は、エンジン全体の動作安定性や耐久性に影響を与える重要な要素です。特に、ピストン、シリンダーライナー、クランクシャフトなどの主要部品の動作寿命や信頼性に関わるほか、エンジンのNVH(Noise, Vibration, and Harshness)性能にも大きく関係します。外部励起に対しては、特に低次の4つのモード周波数の影響が顕著であり、共振が発生すると振動が増幅される可能性があります。そのため、固有値解析を通じて主要なモード形状や周波数を特定し、適切な設計上の対策を講じることが重要です。


本解析では、エンジンブロックの固有振動数とモード形状を正確に評価することを目的としています。シミュレーションを通じて、ねじりや曲げを含む主要なモード形状を可視化し、各モードの特性を把握することで、設計段階での共振リスク特定などの性能向上に繋がる情報を取得します。


■使用ソフトウェア:AIFEM


解析概要


解析対象となるエンジンブロックのモデルは、以下に示す通り、ブロック形状を詳細に再現しており、各部品の影響を受ける主要構造として設計されています。解析では、ランチョス法を用いた固有値解析を行います。この手法は、計算量を最小限に抑えながら、固有値を高精度で求めることができるため、エンジンブロックのような複雑なモデルに適しています。ランチョス法は特に、大規模な行列に対して非常に効果的であり、メモリ消費を抑えつつ、複雑なモデルでも高精度な結果を得ることができます。反復法に基づくこのアプローチは、計算の精度を保ちながら迅速な解析を実現するため、固有振動数の解析において効率的な手段のひとつとなります。


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図1:メッシュモデル


ソルバーの実行にはハイブリッド並列技術を使用しており、計算を複数のプロセッサで分散して処理することで、大規模な解析でも処理速度を向上させます。これにより、エンジンブロックのような複雑な形状を持つモデルに対しても、短時間で効率的に結果を得ることが可能です。また、適応型スペクトルセグメンテーションを使用して、エンジンブロックの固有振動数を細かく解析し、特定の周波数帯域での振動モードを抽出する方法があります。この方法により、低次から高次の振動モードまでを効率よく評価し、特に共振リスクの高いモードに焦点を当てた解析が可能となります。


解析結果


本解析では、エンジンブロックの1次および2次のモード形状(ねじり、曲げ)の変位分布を可視化するために、各モードにおける変位分布図を作成し、挙動を詳細に確認しました。変位の大きさを視覚的に示し、特定の箇所での振動が顕著に現れる部分を強調することで、振動集中が予測される部分を特定し、精度の高い振動管理と改良のための情報を取得することができます。振動が大きい部分の剛性を向上、共振リスクの高い振動数を避けるための設計変更、振動特性を最適化するための設計指針、などの検討に対して解析結果は有益な情報を提供します。


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図2:1次ねじりの変位


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図3:1次曲げの変位


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図4:2次ねじりの変位


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図5:2次曲げの変位


表1:結果比較

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