石油タンカーの船体内部レイアウトのロバストベースの最適化


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概要

船舶、特に大型船舶において船体内部空間のサイズ、位置は、コンセプト設計と呼ばれ、設計の初期段階で検討されます。石油タンカーの場合、船体内部のレイアウト設計は、操業期間内全体の性能を評価する最適化問題として検討されます。最適化実施時の目的関数は経済的利益、安全性、環境汚染防止等、多目的となり、一つの評価項目として挙げられるのは貨物積載能力に対する船体に発生する曲げモーメントになります。設計変更を実施した場合、オイル排出性能がトレードオフとなることが一般的であり、安全性と経済的利益に対し、様々な不確実要素を考慮した石油タンカーの内部レイアウトの最適設計を実施します。


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最適化問題の設定

 設計変数

 船体の全体サイズは固定とし、設計空間は内部コンパートメントの寸法、配置とし、最適化を実施します。


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制約条件

制約条件の大部分は、SOLAS(2012年、海上における人命の安全のための国際条約、国際海事機関、ロンドン、第II章)、およびMARPOL(2006年、船舶による汚染防止のための国際条約、 附属書I.国際海事機関、ロンドン)にて定義された条件となります。これらはほとんどの条件で不等式制約条件ですが、これらを等式制約条件い変更し、最適化を実施します。例えば安定性基準の一つに横方向および縦方向の安定性に対する不等式の制約条件があり、この制約条件を条件に合致した合格(1)、または不合格(1ではない)という2つの等式制約条件に変更し、実施します。こうすることで制限条件を簡素化し、ロバストな最適化を実施可能となります。T損傷の可能性による石油流出を評価する際には、不確実性をモデル化するために、制約条件に3-sigmaの定式化を使用し、ロバスト最適化を実施しました。

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目的関数

目的関数は、安全性と経済的効果の両分野で設定され、多目的関数となります。

1.貨物容量の最大化

2.最大ホギング時の静止水曲げモーメントの最小化

3.最大サギング時の静止水曲げモーメントの最小化

最大静止水曲げモーメント(SWBM)は、ホギング状態で評価を実施しますが、サギング状態の評価についても安全性と環境保護の観点から必要な条件になります。一般的にサギング状態は荷重が全負荷状態にあるのに対し、ホギング状態はバラストを用いることにより負荷バランスが変わっていることにより発生しているためです。したがって、サギング、ホギング両者の最大変位発生時のモーメント最小化は2つの異なる目的関数として定義しました。SWBMの不確かさは正規分布によってモデル化され、サギングとホギングの分布の期待値と標準偏差は個々に計算されます。ロバスト最適化は3-sigma法を使用しました。


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最適化手順

・設計パラメータを用いてモデルを更新

・事前に定義した負荷条件と損傷モードを計算モデルに適用

・ノーマル、及び尊勝寺の安定性解析の実行

・不確かさを用いた解析モデルの更新

・目的関数と制約条件の評価

・基準の確認

・多目的最適化のための遺伝的アルゴリズム(MOGA)の実行

・最適化完了のための停止基準に達するまで上記の手順を繰り返す


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結果と考察

得られる最適解の履歴を確認すると、貨物積載量がより高く、最大サギング時SWBMがより小さな解がパレートラインを形成していることが分かります。ベースライン設計(赤丸)は、最適解履歴のほぼ中央位置に存在しています。全体的な分布から、数多くのケースがベースライン設計よりも良好な結果となっており、各局所解の結果を確認しても、貨物積載力、最大ホギングおよびサギング時のSWBM値、いずれも改善出来ています。制約条件も許容範囲内に納まっていますが、制約条件評価値は不確かさに応じて変化するため、各設計変数の設計変数値レンジは、当然ながら制約条件である石油流出値の標準偏差が大きくなると、レンジが大きくなります。


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最適解候補の選択

最適解候補を選択する際、今回のような多目的最適化では、目的関数間のトレードオフを確認し、選択します。作業者の意思、つまり設計の目的に応じた分散評価型多目的最適化(MADM)問題として定義し、パレート解からMADMを用いて利用可能な最適解候補となる設計案を特定できます。具体的な分散評価の方法は各目的関数に重みを割り当てることによって指定します。

ここでは、2つの評価基準を用います。

・評価基準1は、各目的関数に等しい重みを定義

・評価基準2は、貨物積載量に大きな重みを採用


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結論

目的関数は、ロバスト最適化を用いた最適化手法により、改善され、制約条件を守った信頼できる領域に存在することが確認出来ました。ベースライン設計では貨物積載量が変わらない場合でも、船の構造により変化する荷重分布を大幅に改善することができます。設計者が設計目的に応じた設計を自由に選択できるような多目的最適化結果になっています。