TCAEを用いたキャビテーション実測比較検証

このケースではTCAE®より新たに実装されたキャビテーション解析機能を用いた半球シリンダのキャビテーション計算の結果と実測値比較について紹介します。また最終的にはTCAE®の計算精度について触れていきます。


キャビテーションについて

ポンプや船舶のスクリュー等で、液体が加速や振動を受けることで液体の静圧が特定の圧力値(飽和蒸気圧)より低圧になると、気泡(Cavity)が発生します。この気泡発生の現象をキャビテーション(Cavitation)と呼び、空洞現象とも呼ばれます。

気泡の発生と崩壊はほぼ瞬時に発生し、この気泡の発生・崩壊が繰り返される時の衝撃圧により、機械に大きな損傷が起こります


キャビテーションは流れ場の局所圧力が飽和蒸気圧より低下すると液体が気体に相変化して気泡(キャビテーション気泡)が発生する現象であるため、液体の温度が蒸発温度より高くなったときに気体に相変化する沸騰現象とは異なります。

キャビテーションの発生条件は下記3つの条件が考えられてます。

(1)液体中に活性な気泡核が存在すること

(2)局所圧力が液体の飽和蒸気圧より低いこと

(3)気泡核が目視できる程度まで成長できる時間まで低圧力の流れ場に存在できること


このケースの評価に使用していますが、キャビテーションの発達の程度を示す指標として無次元数のキャビテーション数と定義される値があり、この値は以下の式で求めることが可能です。キャビテーション現象の影響因子としては、物体の形状,表面粗さ,流れの圧力と速度が重要であり、液体の飽和蒸気圧,密度,表面張力,液体に含まれる気泡数も影響すると考えられます。


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TCAE®でのキャビテーション計算設定について

TCAE®でのキャビテーション解析は気液二相流(混相流)である相変化のシミュレーションを行います。物性は水(液体)と水蒸気(気体)の混合物として定義します。 TCAE®でのキャビテーション計算には、greenDymSolverという非定常計算時のみ解析可能なソルバーを使用しています。シミュレーション結果から、圧力場の修正やキャビテーション発生の有無,発生箇所の特定が可能となります。


使用マシン

Intel(R)Core(TM)i7-8700 CPU@3.20Hz 

1ケース計算時間:4コア(クアッドコア)-約20時間


計算に用いる形状は下図のような、円筒内出口側にに半球シリンダを配置したものになります。入口(画像左)からの流れにより発生する半球シリンダ付近のキャビテーションを調査し、その際にキャビテーション数を3パターン設定して、各条件におけるキャビテーションの発生個所や圧力分布、流速分布等を確認します。

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シミュレーション全体形状


実際に計算を実施する形状は全体モデルを25°に分割したものを使用します。キャビテーションのような計算規模が大きいシミュレーションの場合、全体形状で計算を行うと、多大な時間が必要となります。計算形状を分割して周期面を接続する設定をすることで、メッシュ数を削減し、計算の効率を高めることが可能です。(計算結果は360°を想定した結果表示となります)

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シミュレーション計算形状


シミュレーション設定

● シミュレーションタイプ:hydro turbine

● シミュレーション時間:0.1[s]

● 計算タイプ:非定常計算

● 物理モデル:非圧縮性

●入口境界条件:0.5[m/s]

● 出口境界条件:σ=0.2(-96021.7[Pa])

                         σ=0.3(-94539.5[Pa])

                         σ=0.4(-93057.4[Pa])

● 乱流モデル:SpalartAllmaras

● 作動流体:水

● 参照基準圧力:1[atm]

●キャビテーションモデル:SchnerSausor

●キャビテーション設定:キャビテーション計算時にはMultiphase cavitationに必要な値を入力

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キャビテーション設定項目


このケースではキャビテーション数3種(σ=0.2,0.3,0.4)において、半球シリンダの軸方向に沿う各点(s/D)を指定し、そのポイントでの圧力係数(Cp)を評価します。s/Dは無次元の距離であり、sは軸方向に半球シリンダの中心点からの表面を沿った距離であり、Dは半球シリンダの直径になります。評価項目である圧力係数は下記の式より定義されています。

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計算結果と実測値の比較

下記の結果は各キャビテーション数での圧力,流速,蒸気体積率のコンター図になります。


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圧力コンター図


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流速コンター図


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蒸気体積率コンター図


キャビテーション数毎の計算結果と実測値を比較した結果が下記グラフになります。赤プロットが実測値を表し、青グラフはTCAE®の計算結果となります。結果としては、どの計算ケースにおいてもキャビテーションの発生位置,圧力係数共に実測に近い値が確認できており、このグラフはTCAE®キャビテーションの傾向を適切に捉えることが可能であることを示します。


キャビテーション数σ=0.2

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キャビテーション数σ=0.3


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キャビテーション数σ=0.4

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TCAE®でのキャビテーション計算は実測値の傾向と非常に近似した結果を取得することができています。このことより、本ソフトウェアではキャビテーション流れの的確な解析が実施可能であり、キャビテーション数に応じた結果傾向も適切に変化することが可能であることを確認しました。キャビテーション発生位置についても良好な結果を取得しているため、これにより実際の製品のような多様なモデルにおけるキャビテーションを分析し、設計業務の支援が実施可能であると考えられます。