今後大きな成長が見込まれるヨーロッパの洋上風力発電の運用・保守サービス(Operation, Maintenance and Service)の業界では、会社間での熾烈な製品競争が繰り広げられています。
関連企業は業界で生き残るために、「船舶の低コスト化」,「高効率化」,「高収益化」を可能な限り追求し、設計開発を進めています。
今回紹介するプロジェクトは、『革新的な構造を持つSWATH船型支援船の形状最適化』になります。
このプロジェクトの目的は、これまでにない船型の支援船を開発するため、パラメトリックモデルによる形状最適化計算を行うことです。
取得した最適モデルは、従来のモノハル船型支援船のデータと結果比較をすることで、今後の開発方針を決定することとなりました。
形状最適化を行うにあたり、パラメトリックモデルの作成と最適化計算にはCAESES®が使用されました。
「SWATH」・・・Small Waterplane Area Twin Hullの略であり、小水線面積双胴船のこと
「SOV」・・・Service Operation Vesselの略であり、一定期間の洋上活動が可能なオフショア支援船のこと
図1:SWATH船型支援船のイメージ
パラメトリックモデルの作成
この特殊な船型であるSWATH船型支援船は、Rolls-Royce Marine Norwayのエンジニアが、半潜水式プラットフォームやSWATH船からヒントを得て考案したものです。
この船型は、顧客からの要望である「船体サイズの縮小化」と「荒海での航行能力の維持」の両方に対応することができると予想されています。
CAESES®は、パラメトリックモデリング,メッシュ作成,解析ソフトウェアとの連携,ヒーブ運動の低減を目的関数とした最適化計算,RAO(応答振幅演算子)と加振力・モーメントのポスト処理、といったあらゆる場面で利用されました。
SWATH船型支援船には既存設計が存在していないため、後工程で多彩な設計バリエーションを生み出す必要がありました。
そのため、このプロジェクトにはフルパラメトリックモデリングが採用され、形状は4つの主要部分に分けられることになりました。
主要部分:平行ミッドボディ,バルブ,平行ミッドボディとバルブの移行部分,喫水線付近
図2:船体ハーフモデルと各設計変数
フルパラメトリックモデルを用いることで、同じ変位を持つ数百の設計モデルが簡単に作成されました。
あらゆる設計モデルは、CAESES®と連携接続されたNEWDRIFT+(耐震解析ソフトウェア)で解析が実行されました。
図3:CAESES®で作成したパネルメッシュモデル
図4:船体モデルの形状変形サンプル
最適化計算の実行
このプロジェクトの最適化計算は、3つのステップにより進められました。
①しらみつぶし探索による不安定な変数の特定と削除
②Dakotaアルゴリズムを用いた応答曲面法による最適化計算
③しらみつぶし探索による形状への影響が少ない設計変数の影響調査
オプションのステップとして、CAESES®に含まれる最適化アルゴリズムを用いた最適化設計の微調整があります。
図5:最適化プロセス
解析結果のポスト処理
CAESES®は、取得したテキスト形式の結果データ処理にも活用されました。
Feature Definition機能により、解析したすべての設計モデルに関した、振動や動きに関するデータ・RAO,力,モーメントをプロットすることがCAESES®上で可能になります。
これにより、結果出力後にポスト処理ツールを用いて評価する時間を大幅に短縮することができます。
図6:機首方位角180°でのヒーブRAOとZ軸方向でのForceの極座標プロット
結果から、SWATH船型の最適化モデルは、様々な条件下での波浪によるヒービング,ローリング,ピッチングが少なく、長い単胴船よりも強力な航行能力を持つ可能性が高いことが示されました。
また、SWATH船型は優れた耐航性能を持つ一方で、波漂流力の影響を受けやすいため、より高い推進力が必要となる可能性があることも分かりました。
この結果を踏まえて、安定性確保のための重量配置や曳航抵抗,推進システムの効率化などについての詳細な検討を進めていくことが決定しました。
まとめ
今回紹介したプロジェクトの結果だけでは、SWATH船型支援船を実際に活用することに対して、十分な評価ができたわけではありません。
しかし、プロジェクトを通じて、SWATH船型支援船というこれまで存在していなかったモノが生まれるスタート地点を作り出すことができたことは間違いありません。
このようにCAESES®はあらゆる分野の設計開発を効率化し、ユーザーの業務を支援することができます。
既存の製品の改善のみならず新製品の開発においても設計者をサポートすることが可能であり、未知の領域に対しても柔軟に対応できると考えられます。