電動ハイドロフォイルボード(efoil)とは、水中翼(フォイル)の浮力を活用したフォイルボードに動力を追加したマリンスポーツの一種です。
フォイルボードは、サーフボードのような形状の下部にフォイルが搭載されており、特定の速度を超えると浮力によってボードが水面から離れ、抵抗がなくなることで浮遊状態を楽しむことができます。
動力となる推進装置が取り付いていない一般的なフォイルボードは、風などがない場合にはスピードを出して進行するために重心移動(ポンピング)の動きが必要になるが、今回の対象である電動ハイドロフォイルボードでは、ジェット推進の力を操作するだけで水上を進み続けることができます。
今回紹介する電動ハイドロフォイルボードの最適化は、カナダのVe Concepts社(別名:VeFoil)が行った安全性に焦点を当てたユニークな設計開発プロジェクトのひとつです。
VeFoilの共同創設者であるChris Vermeulen氏は、フォイルに取り付けられた推進装置のインペラ全体の直径を小さく抑えながら効率と推力を高めるために、CAESES®を活用したインペラ設計最適化をCAESES開発元のFRIENDSHIP SYSTEMS社と共に実施していくこととしました。
VeFoilのプロトタイプ CARVE 6.0
設計最適化の対象となるフォイルボードは、安全性を重視するためモーターハウジング内にインペラを完全収納することで、プロペラへの接触や落下による巻き込まれ事故の危険がないジェットエンジン式の装置を設計しました。
設計されたボードは、ハウジングに囲まれたインペラが回転することで進み、操縦者はコントローラーを操作して回転数を調整することができる仕様となります。
インペラ、ハウジング、コントローラー
コンパクトな構造となっているジェットドライブは、ダクト式プロペラによって発生する抗力を低減させます。
そのため、VeFoilはモーターを使うことなくうねりの中に入って浮遊感を楽しめる魅力的な製品となっています。
さらに、一定の動力を必要としない構成となっているため、走行時間を延ばすことが可能となります。
プロトタイプのボードが水上をスムーズに動いている様子は、YouTubeにも公開されています。
電動ハイドロフォイルボードのインペラ形状を最適化するために、CAESESでインペラのフルパラメトリックモデルを作成しました。
CAESESに内蔵された既存インペラモデルをベースとし、最適化計算のスタートラインとなるベースライン設計を構成しました。
CAESESは、様々な種類のブレード・インペラのモデリング機能が搭載されており、作成したパラメトリックモデルをシミュレーションソフトウェアなどに接続することで自動最適化計算を容易に実行することが可能です。
インペラのパラメトリックモデル
パラメトリック最適化を実行するために、インペラモデルには設計変数が定義されており、コード長・ピッチ角・レーキ値などの形状寸法をパラメータとして制御します。
ソルバーにはOpenFOAMが選択され、テキスト形式の各設定ファイルを用いてCAESESと連携設定が行われました。
最適化計算では推力最大を目的関数とし、目標となるトルク値と回転数を定義するで、最適候補解を取得することができました。
インペラ表面の圧力コンター(上)と流線図(下)
今回のプロジェクトでは、結果として想定していた改善を大幅に超えた良好な最適候補解を取得することができました。
・同一試験において消費電力が26.6%減少
・最高速度を25[km/h]から、35[km/h]以上に向上
製品開発プロセスにおける、最適化計算の設定には数時間しかかかっておらず、計算自体は自動で進んでいるため、効率的に結果を取得することができた良例となります。
この結果により、エンジニアチームから今後も新しいプロトタイプでのテストを実施することが望まれることとなり、CAESESが推進装置の設計において有効であることを示すことができました。