【CAESES】主成分分析による船体形状の次元圧縮

事例背景


パラメトリックモデリング・最適化ソフトウェアCAESESを用いて船体の水力学性能を最適化するには、まず船体可変ジオメトリの変形に関する設計変数を抽出します。この過程において設計変数を増やすことで、より多彩な変形形状を取得することができることに加え、より良い船型設計案を得られる確度が高くなります。しかし、シミュレーション(CFD解析など)に必要な計算ケース数は指数的に増加する(推奨ケース数S=2N、Nは設計変数の個数)ため、計算コストと時間コストがより大規模なものとなってしまいます。この問題を解決するために、CAESES5では、主成分分析(PCA)手法に基づいた次元圧縮機能を提供します。


ここで、設計変数による表現されるすべての船体形状を設計空間と呼びます。そのため、N個の設計変数はN次元の設計空間として対応することとなるため、次元圧縮機能は設計空間の次元、すなわち設計変数を削減することを目的としています。主成分分析の手法を用いて、変形効果を一定量保証するということを前提として、設計変数の数を減らすことで最適化効率を大幅に向上させることができます。(ここでの設計変数の削減は、従来の感度分析などの手法によって一部変数を除外するのではなく、数学的な方法によってすべての変数をいくつかの変数に置き換える、ということに注意してください。)


この事例では、KCS船の抗力最適化をベースとして次元圧縮機能について紹介します。船体形状には、バルバスボウ、船首船尾、中央部に17個の設計変数が定義されています。


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図1:KCS船のパラメトリックモデル


次元圧縮の設定と計算



次元圧縮の計算するために、定義済みの17個の設計変数に基づいて1000個の船型設計案(ジオメトリ)を作成することと、各船型設計案に対して空間変化を計算するためのサンプリングポイント8000点を定義することを設定します。サンプリングポンとは、各設計案の空間変化を計算した上で、他の設計案との形状差異を内部で比較分析するために使用されます。


計算を実行するとCAESESは自動的に形状作成を作成して、比較分析を行います。ここでは、ジオメトリの演算のみとなるので、シミュレーションは行いません。20コアのマシンでこの作業を行うと、分析に110分ほどの時間がかかりました。



圧縮効果の分析


計算が完了すると、CAESESは自動的に次元圧縮の設定インターフェースに移行します。


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図2:計算後の次元圧縮設定インターフェース


Number of Principal Parameters(次元圧縮後の設計変数の数)を変更し、Percentage of Captured Variance(変動幅の捕捉率)を確認します。上図に示すように、1000個の船型設計案の主成分分析に基づいて、6つの新しい設計変数を設定することで、変形効果の99.9%を捉えることができ、次元圧縮後も設計ニーズを満たすことができます。


上図の下半分にある6つの設計変数を調整し、[To CAD] をクリックすることで新しい設計変数に基づいて、もともとの17の設計変数の値を導き出すことができます。設計変数と船体形状はその値に応じて変形されます。同様に、17の設計変数が変更されると、船体形状が変更され、「From CAD」をクリックすると、6つの新しい設計変数の値が推定されます。


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図3:設計変数の感度表示設定


3Dウィンドウでは、各変数の感度をジオメトリで表示することができます。上図は、新しい設計変数の内、「Parameter 1」の感度表示を設定しており、下図は対応する感度表示を示します。色が青い方が変数がジオメトリに与える影響は小さく、赤い方が影響は大きいことを示しています。


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図4:新しい設計変数の感度表示


次元圧縮に基づくDoE探索


船体が受ける抗力を計算するため、SHIPFLOW(CFD解析ソフトウェア)とCAESESを連携し、目的関数をRt(抵抗係数)としてDoEによる探索を行います。


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図5:DoE(実験計画法)の設定


サンプル数に200を設定し、dimensionity Reduction1(次元圧縮設定)を適用して計算を実行します。次元圧縮後の6個の新しい設計変数によるsobolサンプリング点の分布と、17個の設計変数によるサンプリング点の分布は明らかに異なることが分かります。下図は、17個の設計変数に基づくサンプル点分布であり、200個のサンプルが設計空間に均一に分布しています。


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図6:Sobolサンプル点分布(次元圧縮前)


次元圧縮後、200のサンプル分布がより集中した結果となり、変形の効率的な領域にサンプリングがより集中するということが理解できます。


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図7:Sobolサンプル点分布(次元圧縮後)


DoE探索の結果は下図に示すように、次元圧縮前の最適化モデルはRt=83.2188[N]となり、ベースラインに対して2.5%改善したが、次元圧縮後の最適化モデルはRt=81.3979[N]であり、4.7%の改善となりました。


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図8:次元圧縮前(左)と次元圧縮後(右)のRtサンプリング結果の比較


次元圧縮に基づく最適化


DoE探索によるベスト結果に基づいた、TSearchアルゴリズムによる最適化50回の過程を以下に示します。


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図9:次元圧縮前(左)と次元圧縮後(右)のRt最適化結果の比較


まとめ


次元圧縮手法を用いることで、ユーザーは設計段階でより多くの設計変数を追加することができ、最適化段階においては次元圧縮による設計変数の削減を活用することで、効率的に最適化コストを低減すると共に、より良い最適化を実現します。この事例の具体的な比較は以下の表に示します。



設計変数の数

Sobol

Tsearch

最適化効果

合計時間

従来最適化手法

17

推奨:131072

実際:200

50

3.60 %

166.67 h

次元圧縮手法

6

200

50

5.50 %

168.5 h

(次元圧縮計算含む)

注:単一のCFD解析時間は40分です。