フラットプレートを用いた乱流モデルの検証シミュレーション

TCFD®を用いた平板上での乱流モデルベンチマークテストについて紹介します。

このベンチマークの目的は、TCFD®を用いて平板上の流れを乱流モデルと壁関数を組み合わせた設定でシミュレーションを実施し、実測データとの比較を行うことです。

このテストケースについてはNASAのWebサイト上にも詳細が説明されています。(https://turbmodels.larc.nasa.gov/flatplate.html)

 

ベンチマークパラメータ

●流速:50 [m/s]                                                                  ●流れモデル:圧縮性

●メッシュサイズ:0.01/0.08M [cells]                                   ●作動流体:空気

●基準圧力:1 [atm]                                                               ●参照密度:1.2 [kg/m3]

●動粘度:1.8×10-5 [Pa⋅s]

●乱流モデル1:k-OmegaSST(壁:高レイノルズ数モデル) ●乱流モデル2:v2f(壁:低レイノルズ数モデル)


このシミュレーションケースは"Zero Pressure Gradient Flat Plate"と呼ばれ、平板上の圧力勾配がゼロになる2次元のシンプルなテストケースです。平板は下記画像のように構成されており、50[m/s]の空気の流れの影響を受けています。形状の寸法は原点[0,0]からX軸方向に2mの長さで作成されています。 このテストケースは計算規模が小さいため、収束に多大な時間がかからないことと、検証用の分析データと測定データを利用することができるため、乱流モデルのテストに非常に適しています。


image.png

シミュレーションモデル概要


このベンチマークでは、OpenFOAMメッシュ作成アプリケーションであるblockMeshを使用して構造格子を作成しています。TCFD®では外部メッシュを読み込んで計算実行することが可能であり、MSH,CGNS,またはOpenFOAM形式の各フォーマットで作成されたメッシュを直接読み込んで計算することが可能です。使用するメッシュは、上記画像の座標X=0の位置で接続された2つのシンプルなブロック形状で構成されています。

今回のケースでは壁関数が高レイノルズモデルと低レイノルズモデルで比較をするために、2種類のメッシュ構成を作成しました。粗いメッシュは200*50のセル配置となっており、X軸方向に200セル,Y軸方向に50セルが配置されています。細かいメッシュは200*400のセル配置で、X軸方向に200セル,Y軸方向に400セルが配置されています。下記の表は使用するメッシュについてのデータです。

image.png

使用する2種類のメッシュ概要


下記の画像は使用する2種類のメッシュデータの比較画像となります。壁近傍について拡大したもので、セルサイズの違いや壁近傍のセルの成長度合いを確認することができます。赤色で表示されているセルに対して、青色で表示されているセルが非常に細かく設定されていることが分かります。

image.png

メッシュ拡大図(赤:200*50 青:200*400)


TCFD®での計算設定

●シミュレーションタイプ:Stator   ●定常計算(steady state)

●非圧縮性流体                                  ●乱流モデル:k-SST,v2f(スクリプトにて追加)

●メッシュサイズ:0.8M [cells]           ●入口条件:50 [m/s]

●出口条件:静圧条件


乱流境界層に関する結果取得のため、TCFD®で下記2つケースのシミュレーションをRe=10,000の環境にて実施しました。

Case1.メッシュ設定200*50,高レイノルズ数モデル,乱流モデルk-SST

Case2.メッシュ設定200*400,低レイノルズ数モデル,乱流モデルv2f


下記のグラフはRe=10,000の環境にて各シミュレーション結果を比較したものになります。境界層の壁面に平行な平均流速u+と壁からの距離y+との関係から境界層内の流動特徴を考察することが可能となります。TCFD®の結果については、NASAが実施したシミュレーション結果と実測の分析結果とで比較しており、どちらの乱流モデルのケースについても比較対象の結果と傾向が近似していることが確認できます。グラフ結果を部分的に拡大した場合にも、y+に対するu+の値がほぼ比較対象と変わりないことからも、TCFD®の計算精度が良好であると判断することができます。

image.png

image.png

image.png

Re=10,000の流動特徴の結果比較


平板上における粘性流体による流れにおいて、もう1つの重要となる特徴は、摩擦係数(Cf)です。 摩擦係数は形状表面に沿って移動する物体の重量と、形状表面と物体の間の接触を維持する力の比率になり、流体が平板上での滑りにくさを表す係数になります。摩擦係数を平板上に沿って評価することで、流体の流れに関する貴重なデータを取得することができます。


レイノルズ数変化における摩擦係数の評価についても、乱流境界層と同様の2ケースをシミュレーションし、下記のグラフように結果を取得しました。評価については、層流(laminar)時と乱流(turbulent)時の分析結果を導出したデータとシミュレーション結果を比較します。摩擦係数Re=100,000までは、不安定な結果となっていますが、その後のRe≒500000以降はレイノルズ数の変化とともに両ケースの結果が、乱流での実測結果に近似していることが確認できます。層流状態についても、細かいメッシュを用いたケースは傾向がおおむね近似している部分を確認できました。

image.png

レイノルズ数と摩擦係数を用いた各計算結果比較


このベンチマークテストは、計算規模が小さいため、計算の収束が極めて迅速であるため、テストケースとして非常に適した内容となっています。実施したCase1は、非常に速い収束をしながらも、平板に沿った各評価点において想定通りの乱流挙動を示しています。Case2は、収束に時間がかかったことからも、計算精度が非常に高いことを示しています。 複数の乱流モデルと壁関数を用いたシミュレーションを実施したことで、TCFD®を用いた平板上流れ解析は、実測された分析データと非常によく一致することを確認することが出来ました。