高マッハ数領域用の推進システム吸気ダクトの最適化

ライト兄弟が最初に空を飛んだのは100年以上前のことですが、今では効率的かつ手頃な価格で世界の隅々まで飛ぶことができる時代になりました。そして近年、商用の航空分野は年間10億を超え、旅客便を上回っていると言われています。また、将来的には高度90,000フィート以上でマッハ5を超える超音速,極超音速により、4時間でイギリスからオーストラリアに飛ぶことが予想されており、この驚くべき偉業は20年以内に実現する可能性があるとされています。

さらに印象的なのが、空と宇宙の領域を橋渡しする宇宙飛行機の開発です。宇宙飛行機は従来の滑走路で離着陸が可能であり、再利用可能なエアブレシングを用いた推進システムを利用して極超音速に加速するため、現在の使い捨てのロケットシステムよりもはるかに手頃な価格で低軌道(地球周回軌道)に上昇します。ペイロード、宇宙探索、宇宙旅行が、宇宙航空分野の目覚ましい発展の原動力になっています。超音速は音速(マッハ1)を超える速度として定義されていますが、 極超音速は、激しい空力加熱が分子の解離とイオン化を起こす領域にあり、通常はマッハ5を超えます。


 

図1:極超音速の概念


このような極端な条件に必要な推進システムは、非常に厳しい環境で動作する必要があるだけではなく、比較的低速な飛行(離陸時や上昇時)に使用される技術と大幅に異なるため、従来の推進システムと超音速や極超音速の高速巡航のシステムは互換性がありません。そのため、ラムジェットやスクラムジェット等のジェットエンジン構成を含む複合サイクルの概念は、設計段階に入っており、現在開発中であるとされています。その開発中の推進システムの1つに、従来のターボジェットとラムジェット(もしくはスクラムジェット)を高いマッハ数で組み合わせるタービンベースの複合サイクル(TBCC)があります。

 

 

図2:複合サイクルの概略


CAESES®を用いた吸気ダクトの設計

このケースでは、開発中の推進システムであるTBCCの吸気ダクトの形状を調査します。このシステムは高速の空気をエンジンに送り、一連の圧縮の衝撃を利用して動的エネルギーを高圧に変換するものです。この調査では、飛行速度はマッハ3.4に設定されています。

吸気ダクトの設計には、インレットカウルの上流に3段階の圧縮ランプを備えた長方形の入り口があり、これにより流れを減速および圧縮し、斜め方向に対して衝撃波を引き起こします。インレットカウルの下流には、流れを拡散させる面積膨張率が2.18のSダクトがあり、これによって末端衝撃と面積膨張した領域での追加拡散を通して流れがさらに減速および圧縮されます。Sダクトは、エンジンの入口部で長方形の断面から円形の断面に移行します。


図3: 吸気ダクトの設計図


このケースで使用する形状は、柔軟かつロバストなCAD機能を備えたCAESESで作成されました。作成された形状の設計変数は、3段階の圧縮ランプの長さと角度に関連付けました。3段の合計たわみ角を固定し、2段目と3段目の角度、カウルリップの角度を調整することが可能となっています。


 

図4: 吸気ダクトのパラメトリックモデル


CAESESとANSYSの連携

CAESESは、最適化のプラットフォームとしての機能も備わっているため、外部のソフトウェアと組み合わせて、自動設計システムを構築することが可能です。このケースでは、CAESESをANSYS/ICEMおよびANSYS/Fluentと組み合わせることで、メッシュ作成とCFDシミュレーションを含めた一連の最適化計算を自動で行います。この合理化されたシステムを促進させるため、ダクトの上流部に流体領域を表す形状とICEMによるメッシュ作成を容易にする制御点とサーフェスを追加しました。

 

 

図5: 自動化システムのワークフロー


image.png 

図6:CADモデル(左)とメッシュモデル(右)


この調査では、CAESESに組み込まれているSobolアルゴリズムを用いて、20ケースの実験計画法(DoE)を実行しました。それによりカウルリップの角度(βlip)とそこで得られる衝撃強度が、ダクトの圧力回復に最も強い影響を与えることが判明しました。20ケースの中で最適なケースは、ベース形状に対して6.68[°]の角度が減少していることが分かりました。ベース形状と比較すると、ダクトのスロート部の圧力回復係数は6.3[%]増加し、出口部では3.9[%]増加しました。


図7:ベース形状と最適形状の比較


この結果から、CAESESを用いた自動最適化システムが、推進システムのTBCCの吸気ダクトの設計および改善に対して非常に効果的であることが確認できました。

この調査は、CAESES複雑な形状に対しても正確かつロバストに重要な設計変数を見つけだし、確実な設計支援を行うことが可能であることを示しています。